本の感想を書いて紹介しておすすめなどしてみる

現役大学生が様々な本を紹介します。短いのですぐに読めます。過度なネタバレは避けて書きますが、ほんの少しのネタバレも嫌だという方は作品を読んでから記事を読むことをおすすめします。

2冊目『博士の愛した数式』小川洋子

 

あらすじ

 [ぼくの記憶は80分しかもたない]博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた—記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。(背表紙より引用)

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感想

 「数学」。それは僕にとって文学とは対照的なものです。そんな数学が文学の世界でものの見事に「美しさ」を放っていました。僕もそうですが、数学に苦手意識を持つ人はたくさんいると思います。語り手である家政婦の「私」も数学に関心があったわけでも得意だったわけでもありません。そのような人でも数学に魅力を感じられる作品です。

 

 まるで数学が主人公の話ような書き方をしてしまいましたが、あくまでも語り手である家政婦、その息子、そして博士の3人の中で育まれるちょっと変わってるけどとても純粋な愛と絆の物語です。

 

 64歳の数学専門の元大学教授であった博士は17年前に事故に遭って以来記憶が80分しかもたないという設定です。80分しかもたない記憶というのは想像しがたいですよね。博士の中の時間は17年前で止まってしまっているのです。記憶の蓄積ができません。毎朝起きるたび[ぼくの記憶は80分しかもたない]というメモを見て自分の症状を認識し、辛い辛い思いをします。毎朝です。語り手である家政婦のこともその息子とも毎日が新しい出会いです。

 

 「会うたびに忘れられるなんて、仲良くなることが可能なのか?」と思いますよね。普通は無理だと思います。しかし、そんな博士との絆は数学、そしてこの物語のもう一つのキーワードである「阪神タイガース」を媒体にして紡がれていきます。

 

 博士は何の変哲も無いと思っていた数字に急に意味を与えてくれます。例えば、家政婦の私の誕生日は2月20日でした。そして博士が学生時代にもらった学長賞はNo.284でした。この220と284なんの変哲も無いような数ですよね。しかし、この2つの数字は友愛数という滅多に存在しない数の組み合わせなのだと興奮気味に博士は私に教えてくれました。

 

 「友愛数。だから何なの?」と思う方は多いことでしょう。「私」もそうでした。しかし気になって、他にもそういった数の組み合わせがないか探してみます。「博士は、私との間にあるこの友愛数という秘密を忘れてしまうだろう」などと考えながら。そういったことが重なり、博士の数学への常識とは異なる姿勢に触れていくうちに私も数学に奇妙な感情を持ち始めます。

 

 これらの数学への感情が文系的にとても美しく書かれています。例えば、たびたび数学を宇宙のように描写していました。とても丁寧で綺麗な表現でした。この数学の奇妙な魅力、美しさは僕の文章を読んでもまず伝わることはないでしょう。(笑)しかし、小川洋子さんの書く文は読み手にその数学の美しさと登場人物たちの数学への感動をじわじわ伝えてきます。

 

 また、博士は子供をものすごく大事にします。子供のためなら自分のこだわりなんて気にも留めないし、とても真摯に向かい合います。その真摯さゆえに空回りするときもあります。その不器用ながらも深い愛は「私の」息子のルートに注がれます。ルートはそれを余すことなく受け取ります。

 

 そんな愛で、そして博士が伝えてくれる不思議な数学の魅力を共有することで、私とルートと博士の間の絆が育まれていきます。ありふれた表現かもしれませんが、博士も私もルートもみんな必死に相手を思いやっています。そんな愚直な思いやりに僕は感動しました。80分しか記憶がもたない設定なんていうのはおまけで、このまっすぐな思いやりにこの作品の魅力は詰まっていると思います。そしてこの真っ直ぐな思いやりは、読み手の心をじわじわと温めてくれます。余談ですが、思いやりといえば、博士の数学への気持ちも思いやりと呼んでいいのと感じます。

 

 ところで、もう一つのキーワードの阪神タイガースについてです。ルートも博士も阪神タイガースのファンでした。これも博士と私のルートの繋がりになっていました。また、それだけではなく阪神ターガースには数学の面白さまでもが秘められていました。一見関係ないような数学と阪神タイガース小川洋子さんによる仕掛けには驚嘆でした。みなさんも作品を読むと、吃驚させられるでしょう。

 

まとめ

 「数学の美しさ、魅力」、非常に真っ直ぐな「思いやり」が詰められた作品です。ありふれた言葉ではありますが、心が温められます。そして、どんなに数学に苦手意識のある人でも数学に興味を持ってしまうのではないでしょうか。